SNSの中でも特にZ世代の若者を中心に絶大な人気を誇るTikTok。
その勢いは留まるところを知らないように見えますが、一方で国際的な規制の動きも活発化しています。
この記事では、TikTokの現状と将来性、そしてメディア全体の流行り廃りについて考察し、小規模事業者や個人事業主の方がSNSマーケティングを考える上でのヒントを探ります。
流行っていても一寸先は闇
どんなに人気のあるメディアやサービスも、永遠にその地位を保ち続ける保証はありません。
かつてのタピオカブームのように、メディアで盛んに取り上げられることで流行が加速する一方で、手に入りやすくなると急速に関心が薄れることもあります。
メディアの世界も同様で、新しいプラットフォームが登場しては消えていく、栄枯盛衰の歴史を繰り返しています。
TikTokも例外ではなく、現在の人気が将来も続くとは限らないのです。
TikTokとは?
TikTokは中国のByteDance社が運営するショート動画プラットフォームで、世界で10億人以上の利用者を抱えています。
特に若い世代に人気があり、日本でも広く利用されています。
TikTokの躍進と成功要因
TikTokの成功は、いくつかの要因によって支えられています。
- ショート動画フォーマット: 15秒から数分程度の短い動画が中心で、スマートフォンでの視聴に最適化されています。
これは、「タイパ(タイムパフォーマンス)」を重視するZ世代やα世代のニーズに合致しています。 - 強力なレコメンドアルゴリズム: ユーザーの視聴履歴や行動に基づき、興味を持ちそうな動画を「おすすめ」フィードに次々と表示します。
これにより、ユーザーは能動的に検索せずとも、”偶然の出会い”のように新しいコンテンツや商品に触れる機会が増えます。 - ユーザー生成コンテンツ(UGC)の活発化: 簡単に動画を作成・編集できる機能が充実しており、多くのユーザーがコンテンツ制作者(クリエイター)となっています。
企業発信の情報よりも、一般ユーザーのリアルな投稿(UGC)が信頼されやすく、共感を呼ぶことで爆発的な拡散力を持つことがあります。
これが「TikTok売れ」と呼ばれる、ユーザー主導の商品ヒット現象を生み出す背景にもなっています。
いわゆる、インフルエンサーマーケティングと呼ばれる手法ですね。
心理学の『ウィンザー効果』で、提供企業そのものの宣伝よりも効果を発揮すると言われています。 - ユーザー心理の理解: 「いいね」などのリアクションを得やすい仕組みや、「#有名になりたい」といったハッシュタグの人気に見られるように、ユーザーの承認欲求を満たす設計がなされています。

ユーザー心理を掴んだ革新性
TikTokは、単に面白い動画が見られるだけでなく、ユーザー体験(UX)全体が巧みに設計されています。
- ストレスのない視聴体験: スワイプするだけで次々に動画が再生され、長時間視聴しても飽きさせない工夫が凝らされています。
- 高いエンゲージメント: TikTokユーザーは1日あたりの平均利用時間が他のSNSと比較しても長い傾向にあります。
保存数やコメント数が多い動画ほど拡散されやすいアルゴリズムも、エンゲージメントを高める要因です。 - 購買への短い導線: 動画を見て「欲しい」と感じてから購入までのステップが短く、衝動的な購買行動につながりやすい特徴があります。
国際的な逆風:広がるTikTok規制
華々しい成功の裏で、TikTokは世界各国で厳しい視線にさらされています。
禁止・規制の実態
- 政府機関での利用禁止: アメリカ、EU、カナダ、日本など多くの国で、政府職員が公用端末でTikTokを使用することが禁止されています。
- 米国での規制法成立: アメリカでは、安全保障上の懸念から、親会社のByteDanceに対し米国内事業の売却を義務付け、応じなければ国内でのサービス提供を禁止する法律が成立しました。
施行までには猶予期間があり、法廷闘争も見込まれますが、予断を許さない状況です。 - 全面的な禁止: インドのように、国全体でTikTokの使用を禁止しているケースもあります。

規制の主な理由
各国がTikTokへの警戒を強める背景には、主に以下のような理由があります。
- データセキュリティとプライバシーへの懸念: ユーザーデータが中国政府に渡るのではないかという懸念が根強くあります。
中国には、企業や個人に国家の情報活動への協力を義務付ける「国家情報法」が存在するため、中国政府からの要請があればByteDance社がユーザーデータを提供せざるを得ない可能性が指摘されています。
過去には、位置情報データへの不正アクセスも報じられています。 - 国家安全保障上のリスク: 中国政府がTikTokを通じて情報収集や世論操作(プロパガンダ)を行う可能性が懸念されています。
- 情報の正確性: 不正確な情報が拡散しやすいプラットフォームであるという指摘もあります。(これはSNS全般に言えることですけど)
TikTok側は一貫して中国政府へのデータ提供を否定していますが、各国の懸念は払拭されていません。
TikTokの将来性に対する複合的な懸念
規制問題に加え、TikTokの将来性にはいくつかの懸念材料が存在します。
メディア変遷の歴史的パターン
我が国のインターネットメディアの歴史を見ると、以下のような変遷が見られます。
- 2000年代初期:ブログやウェブサイトが主流、2ちゃんねるなどの掲示板文化
- 2005年頃:Web2.0やUGM/CGMの台頭、ユーザー発信型コンテンツの価値認識
- 2010年前後:SNSの黄金期(ミクシィなど)、日本のインターネットメディアにとっての黄金期
- 2015年以降:スマートフォンの普及でスキマ時間のメディア接触増加、グローバルサービスの浸透
TikTokは、この歴史的な流れの中でのスマートフォン最適化とスキマ時間消費に特化したプラットフォームとして登場しました。
どんなに革新的なアイデアも、いずれは模倣され、陳腐化する可能性があります。
TikTokがこの歴史的パターンから逃れられる保証はありません。
競合企業の対抗措置
Instagram(Facebook)などの競合プラットフォームは、TikTokの人気の要素を取り入れた機能を次々と導入しています。
例えばInstagramは2020年8月5日に「リール」という、15秒の短尺動画を作成・発見できる新機能を発表しました。
これはTikTokと極めて似た機能であり、もしTikTokが閉鎖することになれば、多くのユーザーはInstagramに流れる可能性があります。
こうした競合他社の動きもTikTokの将来性を脅かす要因の一つとなっています。
また、米国の規制法に関連して、マイクロソフトやオラクルといった企業がTikTokの米国事業買収に関心を示しているとの報道もあります。
競争環境の変化も、TikTokの将来に影響を与える可能性があります。
メディアの興亡から見るTikTokの位置づけ
メディアの歴史を振り返ると、特定のメディアが急成長し、その後衰退するというサイクルが繰り返されてきました。
TikTokの脆弱性と革新性
TikTokの革新性は、その「消費の手軽さ」と「制作の簡便さ」にあります。
しかし、この成功要因はまた脆弱性の源でもあります。
- プラットフォーム依存:TikTokはバイトダンスという一企業によって提供されているため、企業の経営方針や国際政治に左右されやすい
- 模倣可能性:TikTokの基本機能は他のプラットフォームにも比較的容易に模倣可能で、実際InstagramのReelsのように類似機能が続々と登場している
- 利用者層の移り気さ:主要ユーザーであるZ世代は新しいプラットフォームへの移行に抵抗が少なく、次の「流行り」に容易に移動する可能性がある
- コンテンツの深さの限界:15秒~1分という時間制限は表現の深さに制約を課し、より深い内容を求めるユーザーの要求に応えられない可能性がある
これらの要因から、TikTokは短期的に大きな成功を収めながらも、長期的な安定性には課題を抱えていると考えられます。
TikTokは、強力なレコメンド技術やユーザーを巻き込む文化といった革新性を持つ一方で、国際的な規制リスク、プラットフォームへの依存度の高さ、流行り廃りの可能性といった脆弱性も抱えています。
特に、その人気を支えるアルゴリズムが売却交渉のネックになる可能性も指摘されており、将来は不透明と言わざるを得ません。

ブログとTikTok:メディア持続性の比較分析
ここで、小規模事業者や個人事業主にとって身近な情報発信ツールであるブログとTikTokを比較し、メディアとしての安定性や持続性について考えてみましょう。
ブログの持続的安定性
ブログは2005年に流行語大賞を受賞するほど普及した後も、「オワコン」と何度も言われながらも実は生き残ってきました。
この「ブログオワコン説」は毎年のように唱えられてきました。
- 2008年:TwitterやFacebookの上陸でオワコン
- 2011年:コンテンツの質が求められオワコン
- 2015年:量産型が通用しなくなってオワコン
- 2018年:大YouTube時代でオワコン
- 2020年:企業ブログ優遇でオワコン
しかし実際には、アフィリエイト市場は右肩上がりで伸び続けており、ブログを通じたビジネスモデルは今もなお有効です。
- コンテンツの資産化: ブログ記事は一度作成すれば、検索エンジンを通じて長期的に読者を集める「資産」となります。
時間が経つほど価値が増す可能性もあります。 - SEOによる安定集客: 適切なSEO(検索エンジン最適化)対策を行うことで、Googleなどの検索結果からの安定したアクセス流入が期待できます。
これは、プラットフォームのアルゴリズム変動に左右されにくい安定性につながります。 - 自由度の高さ: デザインやコンテンツ形式、マネタイズ方法などを自由に設計できます。
プラットフォームの規約変更に縛られるリスクが比較的少ないです。 - コントロール性: 自身のドメインとサーバーで運営するため、メディアとしての主導権を握りやすいです。
TikTokの不安定な将来性と対照的に、ブログというメディア形態は長期にわたって安定した存在感を保っています。
メディアとしての根本的な違い
比較項目 | TikTok | ブログ |
---|---|---|
主な目的 | 短期的な注目、バイラル効果、エンゲージメント | 長期的な情報提供、信頼構築、資産形成 |
コンテンツ形式 | ショート動画 | テキスト中心、画像、動画など自由 |
主なアクセス源 | レコメンド、プラットフォーム内 | 検索エンジン(SEO)、SNS、直接アクセス |
持続性・安定性 | 流行や規制の影響を受けやすい、プラットフォーム依存 | コンテンツ蓄積による安定性、SEO効果による持続性 |
コントロール性 | 低い(プラットフォーム依存) | 高い(自社メディア) |
収益化スピード | 比較的早いが不安定な場合も | 時間がかかるが安定しやすい |
ターゲット層 | 若年層中心だが拡大傾向 | 設定次第で広範な層にアプローチ可能 |
TikTokは瞬間的な拡散力やエンゲージメントの高さが魅力ですが、プラットフォームへの依存度が高く、流行や規制の影響を受けやすい側面があります。
一方、ブログは効果が出るまでに時間はかかりますが、コンテンツを積み重ねることで安定した集客と収益の基盤を築きやすいメディアと言えるでしょう。
まとめ:TikTokから学ぶメディアの流行りと廃り
TikTokの事例は、メディアの持つ「流行り廃り」という性質と、プラットフォーム依存のリスクを改めて浮き彫りにしました。
持続可能なメディアの条件
メディアが長期的に存続するためには、以下の要素が重要でしょう。
- 政治的・地政学的独立性:特定の国や企業に過度に依存せず、国際関係の変化に耐えうる体制
- コンテンツの本質的価値:一時的な流行に左右されない、長期的・本質的な価値を持つコンテンツ
- ユーザーの所有権と主体性:ユーザー自身がコンテンツやプラットフォームに対してより多くの制御権を持つこと
- 技術的・経済的持続可能性:長期的に維持可能なビジネスモデルと技術基盤
ブログがこれまで生き残ってきた理由は、これらの条件の多くを満たしているからだと考えられます。
TikTokの今後
TikTokの今後については、いくつかのシナリオが考えられます:
- 米国での禁止と分割:米国市場でのTikTok禁止により、地域によって異なるTikTokが存在する状況になる可能性
- 所有権の移転:バイトダンスがTikTokを米国企業などに売却し、国際的な存続を図る可能性
- 縮小継続:一部の市場での禁止を受け入れつつ、他の市場での成長を続ける可能性
- 機能の模倣と分散:TikTokの主要機能が他のプラットフォームに取り込まれ、その革新性が分散していく可能性
どのシナリオになるにせよ、TikTokのような急成長したプラットフォームであっても、国際政治やプラットフォーム依存性などの要因によって存続が危ぶまれるという重要な教訓が得られます。
米国の規制法の行方が最大の焦点です。
事業売却が実現するのか、あるいは米国市場から撤退するのか。
いずれにしても、TikTokを取り巻く環境は大きく変化する可能性があります。
その強力なアルゴリズム技術を手放すことへの抵抗もあり、先行きは不透明です。
メディア利用者と創作者への示唆
TikTokの将来がどうなるにせよ、この一件から学ぶべきは、単一のプラットフォームに依存することのリスクです。
- 複数プラットフォームの活用:「TikTokに限らずあらゆるSNSのアカウントは、ある日突然使用不可になったりBANされたりするリスクがある」ため、1つのSNSだけに依存しないことが重要
- プラットフォーム独立性の価値:自身のウェブサイトやブログなど、特定のプラットフォームに依存しないメディア所有の重要性
- コンテンツの本質的価値:流行りに乗るだけでなく、長期的に価値を持つコンテンツ作成の重要性
- メディアリテラシーの必要性:新たなプラットフォームの利便性と脆弱性の両面を理解すること

メディアの興亡の歴史を振り返ると、TikTokもまた永続的なものではなく、次世代のプラットフォームにいずれ取って代わられる可能性が高いことを認識しておく必要があります。
そしてブログのような古いメディア形態が持つ安定性と自律性は、今後も価値を持ち続けるでしょう。
TikTokの例は、メディアの流行りと廃りを理解する上で示唆に富んでおり、今後のメディアの活用においても重要な教訓となるはずです。
特に小規模事業者や個人事業主にとっては、短期的な流行を追うだけでなく、ブログのような安定性のあるメディアを育て、SNSと組み合わせるなど、長期的視点に立った情報発信戦略を検討することが重要と言えるでしょう。